これまでのあらすじ「難病、奇病、多系統萎縮症」

得体のしれないフラツキが一向に治らず、いろいろなお医者さんに診てもらっても「原因は分からないけど、転ばぬように」と言われ続け、それでもしつこく答えを探すうちに、そのうち、いよいよフラツキだけではなくなってきました。まず、毎朝のラジオ体操をやめました。ジャンプできなくなっていたのです。それから、走り方を忘れたのか、早歩きよりも速く走ることができなくなりました。もう、すでに、最初に気づいたころから半年ほど経っていましたが、この頃になると、転びはしませんでしたが、手放しで歩くにも心もとなくなってきていて、杖がいるようになりました。杖なんてどこで買っていいかわからず、とりあえずスポーツ用品店で、トレッキングに使うポールを買いました。最初は何だか恥ずかしかったものの、杖があると歩きやすく、スタスタと歩けました。ただ、歩けてもフラフラするのはヒドくなる一方で、何か原因があるに違いないと、自分でも不思議に思っていましたし、鍼医の先生も、これは自律神経じゃなくて脊髄か小脳かも、と見立ててくれてました。それで、ネットで調べて、かかりつけではない先生方何人かに診てもらいましたが、やっぱり「数値は異常が見当たらないから、転ばないように気をつけろ」と言われるばかりで。ときに、本当に効くのか怪しい低周波治療を勧められたりして、ここは一回で逃げましたが。それから、尿漏れも見られ、勃ちも悪くなってきてたので「男性更年期障害」かもと言われたことも。

そのうち、いつものように「脚のふらつき」で検索してたところ、思い当たる症状全部を診てくれそうな病院が出てきたので、診察してもらいました。小さなクリニックでしたが、えらぶらず親身になって話を聞いてくれる女医先生で、体の動きや反応を見て、どうやらストレスだけが原因とは考えにくく、とりあえず、もう一度MRIを撮って詳しく診てもらうことになりました。撮ってきた脳の輪切り写真を見た先生は、さらなる精密検査を手配してくださいました。「心筋」「脳血流」「ドーパミン」を診る検査だそうで、ちょっと高度な検査のようで、順天堂病院を紹介されました。しかも「難病医療支援外来」というところが窓口になると言われました。何とも”不安”になる名前で。そこで、先生が仰ってたキーワード「心筋」「脳血流」「ドーパミン」で検索してみると、先生は直接は仰いませんでしたが、どうやら「パーキンソン病」ではないかと見立てていらっしゃるようだと気付きました。「パーキンソン病」は確かに「指定難病」で、「体のバランスがとりづらい」「手足の震え」「動作が緩慢に」「筋肉のこわばり」が主な症状で、国内に15万人、だいたい10000人に10人から18人、という数の患者がいて、発症から10年くらいは介護もいらず、人によっては2、3年寿命が短くなる程度で、投薬治療がポピュラー、だということは検索したら出てきました。会社の先輩にも「パーキンソン病」の方がいらっしゃったので、「そういうこともあるのか」と、ちょっとした覚悟と諦めを感じました。

それから、順天堂で検査を受けるのですが、シーメンス社製の検査機器で、MRIのように筒状の機械の中に寝そべった体を入れていくタイプでなく、寝そべってはいるけど、胸の周りを電気スタンドがゆっくり行ったり来たり照射する、言葉でうまく説明できないけど、あんまり閉塞感も怖さもない、ただ寝そべっているうちに検査終了みたいな高額そうな機械で検査されました。全部で3回。
一回目は、初診受付もなく「難病医療支援外来」で受付してもらい、何だかVIPになった感じの特別受付を済まし、X線の放射能区域のマークの付いた検査室で造影剤を打ちます。放射性の造影剤を静脈注射するのですが、左腕で試すが失敗して右腕で注入、まあまあ太くてまあまあ痛いんです。そのあと、CTでもなくMRIでもないシーメンス社の機械のところに寝そべると、頭だけ固定して、その電気スタンドのデカいみたいのが頭の上を行ったり来たるうちに20分ほど、ウトウトしてきたところでおしまい。これで「脳血流」の検査が終わったとのこと。会計は25000円、随分高いけど機器が高いのでしょう。
二回目は、一か月後。造影剤打つのは同じ。今回は撮影までに3時間ほどあける必要があるそうで、時間をつぶしてから、ご存知シーメンス社の機械に横たわり頭を固定されて、今度は30分ほど撮影しておしまい。会計は25500円。初診の時より高いけど前回との違いは分からないくらいで。これで「ドーパミン」の検査が終わりました。三回目はさらに3週後。また造影剤打って、今度はすぐ撮影。でも5分でおしまい。それから4時間待って2度目の撮影も5分。お会計は17000円。「心筋」の撮影も終えて、3項目終わったけど検査だけで2か月かかりました。

それから10日ほどで検査結果が出て、クリニックの先生に話を聞きに行くと、パーキンソン病ではないけど、小脳の血流が悪く、「多系統萎縮症」の疑いが濃厚、との診断。よくわからないけど”難病”であることには違いなく、対症療法とリハビリで取り組みましょう、と言われました。この時は、パーキンソン病だと勝手に覚悟してたこともあり、多系統なんちゃらについて詳しく聞きませんでしたが、改めて「多系統萎縮症」を調べてみると、なかなか大変な病だとわかりました。

パーキンソン病なら1000人に1人だが、多系統萎縮症なら10000人に1人とか。確かに、どちらも似たような病気で、さらに似た病気に「脊髄小脳変性症」というのもあって、それなら遺伝だけども、遺伝も全く関係ない、突発だと「多系統萎縮症」になるとか、いきなり聞いたことない難病のことを知りました。しかも、発症から5年で車いす、8年で寝たきり、予後は10年、要するに余命10年だそうで。かつては、パーキンソン病のような症状の「線条体黒質変性症」、小脳失調の「オリーブ橋小脳萎縮症」、自律神経障害の出る「シャイ・ドレーガー症候群」という別々の病気だったのが、今は同じ病気だと認識されて、「多系統萎縮症」になったとか。そのうち3つの症状が出てくるはずだけど、今のところ、小脳失調の運動障害しか症状が見られないので、MSA-C(Cは、cerebellar小脳のC)にあたるとか(ちなみに、パーキンソン症状が先に出るとMSA-Pとなり、欧米人に多いパターンだそう)。原因は分かっておらず、当然治療法もないので、パーキンソンや小脳失調の対症療法の薬とリハビリで進行を遅めるしかない、とか。調べるとパーキンソンの覚悟どころの騒ぎでなく、悲劇的な落ち込む話ばかり。受け止めようったって、受け止めきれない。明るい未来なんて一つも出て来やしない。

でも、67500円も大枚はたいて検査しただけに、”原因不明”といわれてきた、体のよろめき脚のふらつきも、ようやく原因がわかりました。明日死ぬような大病を患っているわけでないこともはっきりしました。それに、「多系統萎縮症」なんて聞いたことのない難病だし、今まで全く知らなかった分野ですから、むしろ好奇心もわいてきました。しかも、御国が”難病”と認めるくらいの代物で、いくらかのサービスが期待できることも分かりました。こうなりゃ、頂戴できるものは頂戴しておきましょう。まだまだやっとかなきゃならないこと、というか、やっといたほうがいいこと、この病気になったからこそできること、がたくさんあることも気づきました。ナンテッタッテ「10000人に1人」に選んでいただいたようなもの。そうと決まったからには、メソメソ落ち込んでる暇はありませんな。まずは「多系統萎縮症でございます」と公に認めてもらうべく「難病申請」から始めることにいたしましょう。

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